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  暗闇編 6. 死ぬのもなかなかできません
 

死んだ気になればって言うけれど、死ぬのもなかなかできません

逃亡中妻をめとることになり、「この人と共に生きていこう」と決意した私でしたが、実際には、戸籍も取れないのでろくな仕事にもつけず、どうして生きていこうか、方向性も希望も夢もないのです。私はだんだんやる気も活気もなくなり、元の放心状態に戻っていったのです。

「死んじゃおう。こんな私が生きていたって、ロクなものじゃないや。それに、逃亡生活にも疲れた…。いっそ死んじゃったほうがすっきりするかもしれない」とこんなことを思いました。

よくも悪くも行動に移す私です。早速、毒薬を買おうと思いました。
そして、部屋で毒薬を飲むところをあれこれ想像して、こう思い至りました。
「薬で死ぬのは苦しいだろうな。死んだ姿もむごたらしいだろうし…。死にそこなった時も大変だろうし…」と結局、薬を飲むのを止めたんです。

「そうだ海に飛び込んで死のう。なんかそのほうがいい」
と、今度は長崎の海に出かけました。
さて、海に突き出た岩鼻に立っていたところ、大陸のほうから潮風が海を渡って、ピューピュー吹いてくるんです。その荒涼とした夜の海を見ている私。今度はこう思い至りました。
「考えてみると、私は泳げるし飛び込んだって泳げたら助かるんじゃないのかな。無理して泳がないようにするのは大変な事だ。死ぬのは別の方法にするとするか」
と死ぬのはちょっと延期しました。
死ぬこともできないのです。なんと往生際の悪いことでしょう。二度までもあっさり止めてしまうのですから。何でも思い付くとすぐやる私です。いや、思うより行動の早い私がためらうとは変です。

「おまえは結局、死にたくなかったんだろう」
とおっしゃる方がいると思います。しかし「死にたい。死のう」と思ったのは事実だし、死のうとした後でも「死にたい」気持ちには変わりありませんでした。

なぜ死ねなかったのでしょうか?それは簡単なことです。まだ死の実感がなかったからです。だから「頭であれこれ悩んだ」のです。
行動は強い実感と共に実現されるべきものです。自分に実感がないものだから、頭であれこれ迷ったんです。

   


 

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